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神戸地方裁判所 昭和52年(行ウ)5号 判決 1979年2月05日

原告

坂本修一

原告

森井繁芳

原告

野中諭

原告

中谷常吉

原告

中谷盛一

原告ら訴訟代理人

高野嘉雄

浅野博史

被告

養父町長

朝倉宣征

右訴訟代理人

前田修

竹嶋健治

主文

本件訴を、いずれも、却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立

(原告ら)

「被告がした、訴外村上久光に対する、昭和五一年一月分、二月分の各給与支出命令は、いずれも、無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(訴の変更)

「被告朝倉宣征は訴外養父町に対し金四〇万三、四一六円およびこれに対する、内金二〇万六、〇〇〇円については昭和五一年一月二一日以降、内金一九万七、四一六円については昭和五一年三月一二日以降、それぞれ、右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

仮執行の宣言

(被告)

「原告らの請求を、いずれも、棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

(訴の変更に対し)

「訴えの変更を許さない。」との決定<以下、事実省略>

理由

一本件において原告らは、被告養父町長を相手として同被告が村上に対してなした、昭和五一年一月分、二月分の給与の支払について違法な公金の支出があるとして自治法二四二条による住民監査請求を求めたが、養父町監査委員から右請求は理由がないとする旨の監査結果があつたので、右給与支払支出命令の違法確認を請求する訴を提起した(第一の請求)が、その後、被告朝倉宣征を相手方とし、かつ、原告らが養父町に代位して同人に対し損害賠償を請求する訴(第二の請求)に変更する旨の申立をしたので、このような変更が許されるかどうかについて検討する。

自治法第二四二条の二第六項によると同条に規定する住民訴訟については法四三条が適用され、第一の請求には法四三条二項により法三八条が、また、同法条により二一条が、それぞれ、準用されることは明らかである。ところで本件における第一の請求は自治法二四二条の二、第一項二号の請求、第二の請求は同条項四号の請求と解せられる。一方、法二一条は、もともと、被告の主張するように取消訴訟の係属中、事情の変更により訴訟利益が消滅したり、取消請求として訴訟を維持することができなくなつた場合に原告の救済および訴訟経済の観点から定められたもので、このために取消訴訟(本件では無効等確認の訴)を損害賠償のような異種の訴訟手続で、しかも、被告の変更を伴う訴えに変更することができることを規定するものにして、特に、被告の変更を認めたことは民事訴訟法の建前とする当事者恒定主義の例外を認めたものである。しかし、この訴の変更も請求の基礎に変更のない限り許されるものであり、新たに被告となる国または公共団体とても従前の訴訟における被告であつた行政処分庁と実質的は同一であり、その意味では従前の訴訟においても被告の地位にあつたとみられるようなものに限られるわけである。しかるに本件における、第一の請求と第二の請求との関係は右の場合と異り、第一の請求の被告たるものは行政処分をした行政庁であり、第二の請求の被告は個人である。また、第二の損害賠償請求の原因は地方公共団体の職員としての地位にある個人に対する右地方公共団体の有する損害賠償請求権を原告らが地方公共団体に代位行使するところにあつて、原告ら自身の権利利益を擁護するものではなく第二の請求によつて損害の補てんを受けるものは原告らではなく当該地方公共団体である。このようにみてくると法二一条は本件における訴の変更にまで準用を認めることは相当でない。なお、自治法は昭和三八年法律第九九号による改正で、それまであつた不法財産処理の監査請求、納税者訴訟の規定を整備して現行法二四二条および二四二条の二となり、出訴期間が法定されるに至つたが、その際、法二一条の準用を特に除外せず、出訴期間について特例を定めていないことは原告らの主張するとおりであるが、右改正は訴訟手続について、従前、なんらの規定をおかず、これを最高裁判所の定めるところに任していたものを、あらたに請求の種類ごとに被告についての必要な定めを置き、監査請求の期間があらたに設けられたのに対応して地方公共団体の行政運営の安定性ならびに取引の安定性を確保するために三〇日の出訴期間を設けたほか、別訴の禁止および裁判管轄を定め、その他は行政事件訴訟法の民衆訴訟に関する規定を適用することを定めたものである(自治法二四二条の二、第六項)。ちなみに抗告訴訟のうち無効等確認の訴えについては法一四条の出訴期間が準用されないのであるが、自治法二四二条の二第一項二号による行政処分の無効確認の請求については同法条二項によつてかえつて出訴期間が設けられているところである。このようにみてくると、自治法で法二一条の準用を除外せず、かつ、出訴期間について特例を定めていないということから自治法二四二条の二第一項二号の訴訟から同項四号の訴訟へ変更されるにつき法二一条が準用されるとする原告らの主張には容易に賛成し難い。

してみると第一の請求を第二の請求に変更することは法二一条によることはできず、結局、右変更の申立は許されない。

二そこで本件における第一の請求について考えてみる。

原告らが無効確認を求める被告養父町長の給与支出命令が自治法二四二条の二第一項二号に規定する行政処分たる行為に該当するかどうかが問題となろう。行政処分といい得るためには行政庁が法に基き公権力の行使として人民に対し具体的な事実に関し法律的規制をなす行為であることを要するところ、町長の支出命令は準法律的な行為と解されないではないが、右は町長と町の支出機関相互間の行為であつて、公権力の行使としての人民に対する行為とみることは相当でないので、町長の支出命令は行政処分たる性質を有する行為に該当しないものといわなければならない。そうだとすると本件における第一の請求は自治法二四二条の二第一項二号の訴として許されない。

<以下、省略>

(中村捷三 住田金夫 能勢顕男)

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